こんにちは。今日は、最近読んだ本、柚木麻子さんの小説『らんたん』をご紹介します。
この小説、帯には「女子大河小説」とあるのですが、読み終えた今の感想は「これがほぼ史実だって、嘘でしょう?」です。
「事実は小説よりも奇なり」を地で行く、明治・大正・昭和を駆け抜けた女性たちの壮大な物語。歴史の教科書には載っていないけれど、確かに日本の礎を築いた人々の熱い生き様に触れたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
どんな本?:実在の傑物・河井道の人生
本作は、実在した教育者・河井道(かわい みち)の生涯を描いた歴史小説です。
河井道さんは、現在の恵泉女学園の創立者。 まだ女性の社会的地位が低かった明治時代に生まれ、津田梅子や新渡戸稲造といった先人たちに学び、アメリカへ留学。帰国後は「日本の女性に真の教育を」という信念のもと、昭和初期に自らの学校を立ち上げました。
物語の導入は非常にドラマチックです。
かの天璋院篤姫が名付け親だという・一色乕児(とらじ)は、渡辺ゆりにプロポーズします。しかし、ゆりからの受諾の条件は、「シスターフッドの契りを結ぶ親友・河井道と3人で暮らすこと」という前代未聞のものでした。
男一人、女二人が互いを尊重して共に暮らす。この奇妙な共同生活(これも史実!)は、今でいう「多様性」を先取りしていた家族の形とも捉えられます。
ですが、本作を読み進めるうちに私が何より心を奪われたのは、そうした斬新な設定以上に、河井道という一人の人間の、あまりにも熱い生き方そのものでした。
シスターフッドとは何か?
「シスターフッド(Sisterhood)」とは、文字通りには「姉妹の(ような)関係」を指しますが、現代の文脈、特に今回話題に出たような小説や社会的な話の中では、「女性同士の連帯」「女性間の深い絆(きずな)」を意味する言葉として使われます。
単なる「仲の良い女友達」という枠を超えた、より芯の強い関係性を指すことが多い言葉です。
わかりやすく要点をまとめました。
1. シスターフッドの核心
- 血縁を超えた絆: 実際の姉妹かどうかにかかわらず、女性たちが互いに信頼し、支え合う関係のことです。
- 「共闘」と「エンパワーメント」: ただ一緒にいて楽しいだけでなく、社会の中で女性が直面する生きづらさ、悩み、あるいは夢を共有し、互いに励まし合い、力を与え合う(エンパワーメントする)関係性です。時に「同志」に近いニュアンスを含みます。
- 既存の価値観への対抗: かつて「女の敵は女」「女性グループは嫉妬や足の引っ張り合いが多い」といったステレオタイプな見方がされることがありました。シスターフッドはそうした見方に「NO」を突きつけ、「女性同士は競い合うのではなく、連帯できる」という姿勢を示す言葉でもあります。
歴史的な背景
この言葉は、1960年代〜70年代の第二波フェミニズム(女性解放運動)において、「Sisterhood is powerful(女の連帯は力強い)」というスローガンと共に広く使われるようになりました。
男性中心の社会構造の中で、個々の女性がバラバラに戦うのではなく、団結することで社会を変えていこう、という政治的なメッセージも込められていました。
小説『らんたん』は、まさにこの「シスターフッド」がテーマの作品となっており、結婚よりも優先された絆 として、ゆりがプロポーズを受けた際の条件が「道を含めた3人で暮らすこと」だったというエピソードは、当時の「結婚したら夫に尽くす」という常識よりも、「女性同士の絆」を優先、あるいは同等に大切だと考えた結果です。恋愛や結婚といった制度の枠組みに収まらない、魂レベルでの女性同士の結びつき。それが『らんたん』で描かれたシスターフッドの形となってます。
ここがすごいポイント
ここがすごい①:埋もれた史実に「血肉」を通わせた物語
この作品の最大の特徴は、骨組みが徹底して「史実」に基づいている点です。
著者の柚木麻子さんは、膨大な資料(巻末の参考文献リストは目を見張る量です!)を丹念に読み解き、歴史の闇に埋もれていた事実を掘り起こしました。
そこに、小説家としての想像力で「感情」と「会話」という血肉を通わせたのが、この『らんたん』です。
登場人物たちがどんな行動をとったか、誰と出会ったかという大きな流れはノンフィクションでありながら、その時々に彼らがどう心揺れ動いたかというドラマが、圧倒的なリアリティで描かれています。だからこそ、ただの伝記ではない、熱いエンターテインメントとして胸に迫るのです。
ここがすごい②:豪華すぎる「歴史上の偉人」との交流
読んでいて何度も「えっ、この人も出てくるの!?」と驚かされるのが、河井道の華麗なる人脈です。
彼女は当時の日本人女性としては稀有な国際人であり、そのネットワークは歴史の教科書レベルの偉人たちと繋がっていました。
- 師匠は新五千円札の顔、津田梅子。
- 父親代わりのメンターは『武士道』の新渡戸稲造。
- パトロンは朝ドラのモデルにもなった実業家・広岡浅子。
極めつけは、若き日の野口英世とのエピソード。なんと留学時代、野口英世は道にプロポーズ(に近いアプローチ)をし、あっさりとフラれているのです。このユーモラスな逸話も、研究者の間では知られた史実だとか。歴史の裏側って本当に面白いですね。野口英世は、子供の時に、マガジンで読んでいてとても好きな人物です。

心を奮い立たせる「名言」の数々
女性教育に生涯を捧げた河井道は、数々の力強い言葉を残しています。その情熱は、現代を生きる私たちの背中も押してくれます。
タイトルの由来となった、彼女の自伝の冒頭の言葉がこちら。
「わたしたちひとりびとりには、自分の足もとを照らす小さなランターンが与えられています。」
暗い時代であっても、遠くの大きな光を羨むのではなく、自分にできる目の前のこと(足もと)を一生懸命に照らし続ければ、必ず道は拓ける。そんな信念が込められています。
また、恵泉女学園の校訓の元となった「汝(なんじ)の足もとの泉を掘れ」(=自分自身の内面を深く掘り下げよ、自立せよ)という言葉も、彼女の生き方そのものを表していて痺れます。
おわりに -「当たり前」は、誰かが戦って勝ち取ったもの
激動の時代に、教育という「光(らんたん)」を絶やさぬよう闘い続けた女性たちのシスターフッドの物語。が表現されています。
ただ、現代を生きる私たちにとって、女性同士が深く信頼し合い、助け合うことは、ある種「自然なこと」として受け入れられています。しかしそれは、河井道さんが生きた明治~大正~昭和初期は、「女性は家庭に入り、良妻賢母になるのが幸せ」という価値観が絶対的な「正解」とされていた時代においては、ある種とんでもないことだったのだとこの「らんたん」では感じます。
「女性同士は、競い合うライバルではなく、共に社会を良くしていく同志になれる」
「結婚という枠組みだけに縛られなくても、女性は豊かに生きていける」
いま令和の時代に盛んに叫ばれている「多様性」の道を切り拓いた先人たちの書籍とも言えます。
彼女たちのシスターフッドは、現代の私たちがイメージするようなキラキラした楽しい関係性だけでなく、男性中心社会の中で生き抜くための、もっと切実で力強い「生存戦略」であり「闘い」の絆でもありました
歴史のバトンを受け取る
「らんたん」の著者である柚木麻子さんがこの作品を書いた動機の一つも、まさにそこにあるのではないでしょうか。
「私たちが今、当たり前のように享受している自由や、女性同士の自然な連帯は、決して最初からあったわけではない。泥臭く闘い、道を切り拓いてくれた先輩たちがいたことを忘れないでほしい」
そういったメッセージが込められているように感じます。


