2026年3月、確定申告の季節。知人のフリーランスから「今年、初めて消費税の申告が必要になったんだけど、AIを使えない?」と相談を受けた。
2023年10月にインボイス制度が施行されてから、消費税の課税事業者になった人は急増している。取引先からインボイス登録を求められてやむなく登録した人、売上が1,000万円を超えて自動的に課税事業者になった人。理由はさまざまだが、共通しているのは「消費税の申告なんて、やったことがない」という不安だ。
今回、その知人の確定申告をAIエージェント(ClaudeCode)と一緒に進めてみた。結果、こう思った。「税理士に頼むより、AIと一緒にやった方がよかった」と。これはその体験記です。
インボイス制度で「初めての消費税」に直面する人が増えている
少し背景を整理しておきたい。
2023年10月のインボイス制度施行以降、これまで免税事業者だったフリーランスや個人事業主が、次々と課税事業者に移行している。国税庁の発表によれば、インボイス登録事業者は施行時点で約430万件に達した。その多くが、これまで消費税の申告をしたことがない人たちだ。
今回相談を受けた知人もまさにそのケース。個人事業の売上が1,000万円を超え、基準期間の判定で自動的に課税事業者になった。所得税の確定申告は毎年やっているが、消費税は初めて。「何から手をつければいいのか分からない」という状態だった。
AIに過去の申告書を読ませるところから始めた
まず試したのが、過去の確定申告書(PDF)をAIエージェントに読み込ませること。「今年は消費税の申告も必要ですか?」と聞いてみた。
返ってきた答えは明確だった。
基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超えているため、消費税の確定申告が必要です。期限は3月31日。簡易課税制度も選択可能です。
根拠も期限もセットで、即座に回答。PDFから売上データを読み取り、基準期間のルールに照らし合わせて判定してくれる。この時点で「今年の申告はAIと一緒にやろう」と決めた。
画面を見せながら「これでいい?」ができる
一番驚いたのは、freeeの画面をスクリーンショットで見せるだけで、的確にアドバイスをくれること。
たとえば「配偶者はいますか?」の画面。配偶者に一定の収入がある場合、配偶者控除は受けられるのか?
配偶者の所得が配偶者控除の要件(48万円以下)も配偶者特別控除の要件(133万円以下)も満たさないため、×でOKです。
「子供などの家族はいますか?」の画面でも同様。「配偶者がすでに子供を扶養親族として申請しているなら、重複申請できないので×」と即答。さらに「昨年の申告書では子供がこちら側に記載されていましたが、今年から変更したということですね?」と、過去の申告との整合性まで確認してくれた。
税理士との打ち合わせだと、こういう細かい確認は「年に1回の面談」でまとめてやることが多い。質問するタイミングを逃すと、次の機会まで待つしかない。AIなら、その場で、何度でも、遠慮なく聞ける。
消費税の設定も、一つ一つ伴走してくれた
初めての消費税申告で一番困ったのは、freeeの「事業所の設定」画面。課税方式、簡易課税の事業区分、保存時の処理オプション……。選択肢が多すぎて、何を選べばいいのか分からない。インボイス制度で初めて課税事業者になった人なら、誰もがぶつかる壁だと思う。
AIに画面を見せると、こう整理してくれた。
- 課税方式:一般課税(全額控除)→ 売上がほぼ全額課税売上で、課税売上割合95%以上かつ5億円以下のため
- 簡易課税の事業区分:第五種(サービス業)→ 一般課税を選んだので実際には使われないが、正しい区分
- 保存時の処理:3つともチェックを入れる → 免税事業者から課税事業者への移行なので、既存の取引データの税区分を一括更新する必要がある
さらに「インボイス制度の少額特例」の設定では、「該当する」を選ぶべきだと教えてくれた。前々年度の課税売上高が1億円以下なので条件を満たしており、税込1万円未満の経費はインボイスなしでも控除できるというメリットがある。
こういう「知らなければ損をする」設定を、画面を見ながら一つ一つ教えてくれるのは、本当にありがたかった。
「わからないことがわかる」という価値
AIに聞いて一番良かったのは、「ここはAIでは判断できないので、税務署に電話で確認してください」と、切り分けてくれたこと。
たとえば「簡易課税の届出を出しているかどうか」。これはAIが知る由もない情報だ。でもAIは「確認する方法」を教えてくれる。
- 税務署に電話(最も確実・簡単)
- e-Taxのマイページで確認
- 手元の届出書の控えを探す
「管轄の税務署に電話すれば、本人確認ができれば回答してもらえます」とまで教えてくれる。
税理士に全部お任せすると、こういう判断プロセスが見えない。「先生が言うならそうなんだろう」で終わってしまう。AIと一緒にやると、自分が学びながら、理解しながら完了する。これが最大の価値だと感じた。
会計ソフトの価値が変わった
ここまでAIと一緒にやってみて、ふと思った。「freeeって、もう要らないんじゃないか?」
freeeの最大の価値は「何を入力すればいいか、UIで案内してくれる」こと。でもAIがそれを代替できるなら、freeeは単なるデータ入力の箱にすぎない。
究極的には、AIが直接e-Taxに入力してくれれば、会計ソフト自体が不要になる。もちろん、仕訳の自動取り込みや銀行連携といった「データ収集」の機能はまだ必要だ。でも「何をどう申告するか」を教えてくれるガイド機能は、AIの方が圧倒的に優れている。
会計ソフトは「データ基盤」に、AIは「判断と案内」に。役割分担が変わりつつある。
税理士の役割も変わる
誤解のないように言っておくと、税理士が不要になるとは思っていない。
ただ、「一般的な税務相談」のレベルでは、AIの方が親切で丁寧だった。これは事実だ。24時間対応で、何度同じことを聞いても嫌な顔をしない。根拠を示しながら、スケジュール管理までしてくれる。
税理士の本当の価値は、もっと上流にある。
- 法人と個人の最適な売上配分の設計
- 役員報酬の金額設定と社会保険料の最適化
- 税務調査への対応
- AIでは判断できないグレーゾーンの意思決定
つまり、「入力の手伝い」から「戦略のアドバイザー」へ。税理士の役割がシフトしていくのだと思う。
インボイス時代の確定申告は、AI+税務署が最強
インボイス制度の施行で、消費税の申告が初めてという人はこれからも増え続ける。2割特例(納税額を売上税額の2割に軽減する経過措置)を使っている人も、個人事業主は2026年分が最後の適用となる。2027年以降は「3割特例」への移行が予定されているが、いずれにせよ「本則課税と簡易課税、どちらを選べばいいのか」という新たな判断を迫られることになる。
そういう場面で、AIは力を発揮する。自分の売上データや経費率を見せれば、どちらが有利かをシミュレーションしてくれる。届出の期限も教えてくれる。そして、判断に自信が持てない部分だけ税務署に確認すればいい。
これまでの流れはこうだった。
- 分からないことがある → 税理士に相談(有料、予約必要、待ち時間あり)
- または、freeeのヘルプを読む(一般的すぎて自分のケースに当てはまらない)
- または、ネットで検索する(情報が古い、正確性が不明)
今はこうなった。
- 分からないことがある → AIに画面を見せて聞く(即座に、自分のケースに特化した回答)
- AIが「ここは自分では判断できない」と言った部分だけ → 税務署に電話で確認(無料)
この組み合わせが、現時点で最もコスパが良く、最も安心できる方法だと実感した。税務署は無料だし、法律の最終的な解釈権を持っている。AIが「わからないこと」を切り分けてくれるから、税務署への質問もピンポイントで的確にできる。
まとめ
知人のフリーランスの確定申告をAIと一緒にやってみて分かったこと。
- AIは「都度確認してくれる伴走者」 — 画面を見せれば、根拠付きで即座にアドバイスをくれる
- 「わからないことがわかる」のが最大の価値 — 自分で判断できる部分と、専門家に確認すべき部分を切り分けてくれる
- 会計ソフトの価値が「ガイド」から「データ基盤」に変わる — 判断はAI、データ収集はソフト、という役割分担へ
- 税理士の価値は「入力代行」から「戦略アドバイザー」へ — 一般的な相談はAIで十分、専門家は上流の意思決定に集中
インボイス制度で初めて消費税の申告が必要になった方。確定申告に毎年不安を感じているフリーランスや経営者の方。一度、AIと一緒にやってみてほしい。「聞くのが恥ずかしい」がなくなるだけで、確定申告のストレスは半分以下になる。
2025年は、専門家に聞くことの意味が根本から変わった年だった。
※ 本記事は個人の体験をもとにした感想です。具体的な税務判断は税理士または管轄の税務署にご確認ください。


